うろこ雲のように

日々の生活の中で…

「月曜の女……狭間な心 ②」

 

なぜ彼は私に近づいたのか……

それが、わかってきたのは

そう遅くはなかった。

 

彼の目的……

 

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あの日から随分と彼と会っていなかった。

 

いつから入院するのか

どこの病院なのか

携帯の番号すら知らない。

 

悶々とした日々が過ぎ

姿が見えないと

人はこうも不安になるとは……

 

三週間ほど過ぎた夜

玄関のチャイムが鳴る。

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彼だ!

 

この瞬間

なんて、こんなにも心が踊るんだろう。

 

「おかえりなさい」

この言葉がぴったりだと思った。

 

 後頭部に生々しい傷跡。

「コ」の字が刻み込まれてる。

 

彼に聞いてみた。

「痛くないの?大丈夫?」

 「あぁ、大丈夫。

医者が大丈夫って言ったし痛みもない」

 

「いつ退院したの?」

 「今日」

 

絶句した。

え?なに?

まっすぐ私んとこ来たん?

私に逢いたかったん?

変な意味で返す言葉がない。

 

彼は冷静だ。

表情も変えない人。

どういうつもりなのか益々わからない。

三年前から知り合いなのに

なぜあの日?

そして今日…

 

「ねえ?何故、私に近づいたの?」

直球な質問。

回りくどいのは嫌いな性分だから

聞きたくて仕方なかった。

 

彼はこう答えた。

 

「おまえの唇は魅力的だ」

「おまえ目当てにライブに来るやつもいるって

知っていたか?」

「アイドル的存在。それを俺のものにしたかった」

 

あら?

そんなふうに見てたん?

意外。

だって

さっぱりアプローチなかったもん。

ライブ終わったら

「はい、さいなら〜」だったし……

 

私には付き合って三年目の彼がいる。

その彼に

罪悪感がないとは言えない。

ゲロ吐き事件……

あれは、事故だったし

どうしようもなかった。

 

身勝手……

そのものだよね。

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前回、三ヶ月ぶりで

付き合っている彼と再会した訳だが

 

あんな事があっても

しゃあしゃあと会えるもんだった。

 

仕事で頭が一杯の彼は

私が会いにいっても

上の空が多かった。

 

それでも

20時には帰宅してくれたし

自分のかつての思い出話をして

Jazzの音楽を流しながら

足先を絡ませるなんていうひと時に

幸せを感じてきた。

 

でも結局……

拗ねて帰ってきた。

いろんな意味で。

幼稚と言えば幼稚だけど

期待が大きかった分、満たされなかった。

わかってる、わかってる。

でも…

 

惹かれてる自分がここにいてしまう。

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ボーカルの彼は

月曜日の夜に来る。

 

あとは、一切気配がない。

自宅や職場は知ってるけど

どこで、なにをしてるか

全く気配がない。

 

一週間がたった頃

 突然にメールが来た。 

「今、どうしている?」

「出られるか?」

 

近くの駐車場に呼び出された。

 

「乗れ」

 

どこへ向かうのか行き先も言わず

車は走り出す。

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ほんのちょっと

顔見たいからとか

少し会話したいから

会いに来たわけではない様子。

 

街の灯りが

どんどん遠くなって行く。

 

「どこに行くの?」

そう聞きたかったけど黙っていた。

 

以前

私は沈黙の間が怖いから

ヘラヘラと彼に質問しようとしていた。

彼は相変わらずゆっくりと

「黙っている事が

何も伝えようとしないわけではないんだ」

と言った。

それからは、彼の言葉を待つようにした。

だから、聞けなかった。

 

暫くの沈黙の中、車は止まった。

 

着いた先はホテルだった。

「降りろ」

黙ったまま後ろをついて行く。

 

手慣れた様子の彼に反して

私は

緊張感と不安で一杯。

挙動不審そのもの。

まるでネジが壊れた案山子みたい。

って最初からネジはないけど……

 

部屋の中に入ると
彼はソファーに腰掛けた。

 

彼は私に

「目をつむれ」と命令した。

言われたとおり

ぎゅっ!と目をつむった。

 

そして

そして……

私の首には……

 

 そう、それこそが彼の目的……

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続く       ノンフィクション小説