うろこ雲のように

日々の生活の中で…

「カエルと星…狭間な心 ③」

ストレートな長い髪の合間に

浮き上がる白い首。

その白く透明な首筋に

ガーネット色の艶やかな首輪があった。

 

何となく聞いたことはあったけど

これがそうかと……

 

似合うじゃない、私。

案外、可愛い。

 

犬みたい。

 

「ワン!」って吠えたろか思うたけど

雰囲気壊すから辞めた…

 

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彼の求めるもの 。

それは……

 

服従』『礼儀』『作法』『敬意』

 

しかしだ。

 

いざ、その部屋の入り口に立ち

右も左もわからないのに

「はい、喜んで〜」

なんて飛び込む人はいないと思う。

 

ただ、私の優柔不断さと

妙な自信とビビりながらの好奇心が

ついつい彼を受け止めてしまった。

 

当然、私は躊躇する。

 

「え⁉︎  これは出来ないっ」

「無理〜‼︎」ってものもある。

 だから、反発もする。

素直じゃない。

 嫌なものは嫌。

 

彼は『吐いてる女に欲情する』と言う。

なんなのよ〜それ……

だから、あのゲロ事件。

点が結びついた。

私の吐いてる姿を見たかったんだ。

そんな目で私を見ていたなんて…

正直……

……ひく。

 

「歪んでるんだ、俺……」

 

いつも感じることなんだけど

彼は正直に心をみせる。

カッコつけるわけでも無く

思ってきた事、自分の考えてる事

さらけ出している、この私に。

 

「生い立ちが原因なのかもなぁ……」

「リビングで家族で夕飯を食べるのが

苦痛だったし……」

 

普通なら団欒のその場所、その時間が

楽しいはずなのに。

それが、苦痛だったという。

 

どんな会話がされていたのだろう。

 

飲み込む食事の味など

ただの塊しか

なかったのでは……

そんな時間を過ごしてきた彼。

 

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「何が普通で、何が普通でないのか。

俺には俺のやり方が普通だと思っている」

 

彼は私を正座させ

「面倒臭い女やなぁ」

「好きだとか嫌いだとか面倒だと思わないか」

「こういうのは、付き合ってる恋人同士では向かないんだ」

「付き合っていると、やりたくても出来なくなる」

「俺のスタンスは変わりようがないんだ」

 

彼は一度も

「付き合ってくれ」とは言わない。

「好きだ」とも言わない。

だけど

「惹かれてるからお前の所に来てしまう」

と言う。

 

わかってる。

わかってるってば。

普通の男女の付き合いはできないって事。

 

でも、私も負けない。

私はそんなの求めてない。

一緒に美味しいものを食べ

綺麗な景色を眺め

楽しい事、嬉しい事を

二人で作り上げていきたいだけ。

そう言い切った。

偉いぞ、私。

そして、私のやり方に彼を振り向かせてみる

そんな妙な自信があった。

 

でも彼は

「俺のスタンスは変えられない」って言う。

あぁ……私の求める幸せは

一体どこにあるんだろう。

 

平行線のまま、時が流れる。

 

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 玄関のドアを開けると彼がいる。

いつも、私を正座させ

頭を床に伏せさせ言葉を述べる儀式。

それも敬語。

時々タメ口になり、軽くビンタされる。

そして、帰る時も同じ儀式。

彼が帰ったあと

今度こそ

「もう、無理。ついていけない」

そう言おうと後悔する。

 

何度目かの夜に

玄関先で彼は

「何か、羽織って出てこい」って言った。

 

お風呂上がりの薄着の姿に

急いでパジャマを着て、サンダルをひっかけ

玄関を閉めた。

 

ちょっと離れた所に

いつも車を止めている。

小走りに近寄づいて急いで車に乗り込んだ。

 

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また、行き先も言わず走り出す。

 

「目をつむっていろ」

え?

何?なんなの?

 

目をつむると不安がこみ上げてきた。

 

手には家の鍵しか持って来てない。

携帯も財布も持ってきてなかった……

慌てたんだもん。

待たせちゃいけないと思って……

 

かなり、失敗した。

 

目をつむりながら

前に見た動画を思い出してしまった。

首輪をつけられた女が野放しにされる動画。

まさか……

どうしよう……

 

車が曲がるたびに

体が右に左に揺れ動く。

 

気づかれないように薄っすらと目を開ける。

 

いや〜ん。

山の方向に向かってない?これ。

人気がないじゃん、これじゃぁ。

かなり、失敗したよね。

携帯忘れたし

帰りは歩いて帰るの?

遠いよ〜〜

諦めの覚悟をした。

 

暫くして車が止まった。

 

「まだ、目をつむっていろ。

開けていいと言うまで開けるな」

 

『バタン!』とドアが閉まる音がする。

後部座席の私の座ってるドアが開く。

 

彼が、私の足を車の外に出し

両手を取り、外に連れ出した。

手を繋いだまま、二、三歩、歩く。

思わず

「やだ〜怖い……」

って声が出た。

「大丈夫だから、心配ない」 

「よし、目を開けろ」

 

不安な気持ちを抑え

目を開けるとそこは……

 

真っ暗闇。

 

だだっ広い田んぼの真ん中だ。

しかも、砂利道やん。

カエルの鳴き声が四方八方から聞こえる。

振り返っても

何にもないし民家すら見えない。

何でこんなとこに車停めたの〜

もうやだー

泣きたくなる。

 

暗闇の中から彼の声。

 「上を見てみ〜」

 

上?

顔を上げてみた。

 

「うわ〜!なにこれ〜!」

 

目に入ってきたのは

宇宙の半分が星だらけ!

想像できる?

地平線の向こうから向こうまで

180度、散りばめられた星。

余計な街灯りなどなく

星が数え切れないほど瞬いてる。

しかもカエルの大合唱つき。

 

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 感動なんてもんじゃない。

 

暫く、空をみあげていた。

 

時間が止まるってこういう事なんだ。

こんなに星がみえるところがあるなんて……

人生で初めてだよ……

 

黙って見上げてる私に

 彼は私の肩にパーカーを掛けてくれた。

え?なに?この優しさは。

普段は厳しいくせに

なんなのこの一面。

間がありながらも

「ありがとうございます」って言えた。

 

「しかし、パジャマで出てくるとは〜」

『クスッ』と彼が笑った感じがした。

 

見えないから、暗くて。

彼の表情すら見えないけど笑った気がした。

 

だだっ広い田んぼの真ん中に、車一台。

カエルと星空と彼と私だけ。

 

さっきまで、おののいていた私が

今はこんな感動の渦にいる。

笑えてきた。

 

だって、こんな事をする彼には見えないから。

『クスッ』て笑う彼なんて想像つかないから。

 

これでまた

私の心は狭間で揺れ動いてしまうの。

 

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ノンフィクション小説