うろこ雲のように

日々の生活の中で…

「罠…。狭間な心」

彼と出会ったのは

ライブハウス。

 

一見さんお断りじゃないけど

隠れ家的な雰囲気が強く

 向こうも私の事

新米が来たなって目で見てたと思う。

 

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 ボーカルを担当しながらも

目立たず

隅っこにいる人だった。

私より9歳年下。

付かず離れず

ガヤガヤと話し声の中に

まぎれていた関係だった。

 

でも、そう……あれから急接近した。

 

初めてマッコリを飲んだ日。

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ライブの話に盛り上がり

お酒もかなり飲んでいた。

時計は一時を回っただろうか……

急にパタンと電池が切れたように

気持ち悪くなり

会話もできなくなってしまった。

 

「気分が悪い……もうダメみたい」

 

急いで、タクシーで帰ってきた。

 

部屋に入るなり覚悟を決めて

トイレに駆け込んだ。

 

こんな事、何十年ぶりだろうか……

若い姉ちゃんじゃあるまいし。

やっちゃったなあ。

吐きそうになる自分を身構えていると

 

チャイムが鳴る。

「誰だろ?……こんな時」

 

ゆっくり玄関を開けると

ボーカルの彼が立っていた。

 

「え!」

「ど、どうしたん?」

 

彼は

「大丈夫じゃないだろ〜

きっと吐いてると思って来てみた」

 

目を点にしながらも 

状況が頭を舞う。

ボサボサな髪

パジャマ姿

トイレのドア全開

顔面崩れかけてる

思考能力なし

 拒否ってる力なし。

 

 彼は玄関のドアをしめ

一階のトイレにうずくまる私の背中を

さすりだした。

 

ずいぶん粘っても

気持ち悪さばかりがつのり

一向に吐けない。

 

体が震えてきて

寒くて寒くて

コントロールできなくなってきた。

それを見ていた彼は

「部屋まで連れて行くよ、どこ?」

 

「二階…」

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彼が私の右腕を掴み

体を支えられ階段を上っていく。

大人二人は狭い階段。

体が密着する。

「あ……私のおっぱい、気づいているやろなあ……」

 

「部屋はどっち?」彼が聞いた。

そんな質問を私は不思議に思った。

 

そうか、当たり前か……

他人を部屋にあげたのは初めてだし

彼は初めて入る家なんだし

当たり前な質問か〜などと

変な事をおもっていた。

 

3つある部屋の正面を指差す。

 

 ドアを開けると

セミダブルのベッドが……

 

またまた、嫌になっちゃう。

 

薔薇の模様のベッドカバー

乙女志向をみられた……

いい歳した女が……

 

もう、どんだけいきなりやし

恥ずかしい場面ばかりやし……

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 わたしの部屋は基本、寝るためだけの部屋。

上質な睡眠を得たいから

ベッドだけしか置いていない。

しかも悠々とセミダブル。

壁にも何も飾らない。

カーテンも朝日をも遮る遮光カーテンだし。

 

しかし、ベッドカバーや枕カバーは

薔薇の模様ときたもんだ。

 

イメージと違うって……

可愛いのが好きなの!こう見えてもっ。

まあ、ええわ、もう。。。

 

そんな事がチラホラ浮かびながらも

どうしようもない感があった。

体の動きが言う事をきかないのだ。

 

寒くて寒くて体が震える。

寝たら楽になるかなと思い

ベッドに横たわろうとしたら

いきなり、急激な吐きけが襲う!

 

二階にあるトイレに駆け込み

思いっきり吐いた。 

 

何度も吐いた。

吐いてるとき

無意識に

「プッ!」

おならや……

 

一瞬、おならや。

 

力むじゃん、吐くとき……

 

気づいてへん。

気づいてへんと思おう….…

知らんぷりを通す。

 

彼は背中をさすってくれていた。

 

「はい、水」

 

差し出されたコップでうがいをした。

 

ゲロ吐いてるとこ

見られたわ

屁もこいたわ

最悪やわ……

もう、ええ。

 

軽くなった体を

ベッドにゆっくり滑り込ませた。

横になれる事に安心した。

 

でも体が震える。

「寒い。寒くて仕方ない…」

「体の震えが止まらない…」

 

彼がわたしの隣に入ってきた。

 

私の背中をさすって温めようとしている。

 

彼のあたたかさが伝わってきても

ガタガタと震える体はおさまらない。

彼は

「洋服、脱いだ方が温まるよ」って言いながら

私をキャミソール一枚にした。

 

背中を覆い、温めてくれた。

 

私はだんだん震えが落ち着いてくるのを

感じながら

 

ゲロ吐いてるとこ見られちゃった…

屁もこいたし……

口もゲロ臭いし……

酔っ払いのゲス女、全部見られて……

最低の低レベルや

 

しかも、なんていうsituation……

 

部屋に彼がいて、隣に彼がいる…

 

気持ち悪さから解放されると

頭の思考回路も働き出して

 

「つぎは、どうする?どうなる?」って

考えだす。

 

とりあえず、寝たまま向き合って

 

「すいませんでした。迷惑かけました」

彼に誤った。

 

「大丈夫だよ。心配なって来てみてよかった。

気持ち悪いって言って帰ったから、心配だった」

相変わらず、ゆっくり静かに答えてくれた。

 

「あの〜

まずいですよね。これ。

二人でベッドにいますよね」

私から切り出した。

なんてったってお姉さんだから。

 

「このままでいいですから、あの〜

なにかしようとなんて

しなくていいですから」

なんて変なことを口走る。

 

でも、彼の体は正直。

 

反応してる。

 

困った……

 

実は私には彼氏がいる。

 

しかもう〜んと遠いところに。

三ヶ月前にあったっきりだけど

毎日の電話は欠かさない。

仕事が忙しくて、なかなか会えないのだ。

でも、一週間後

ようやく私が飛んで行く約束にこぎつけた。

 

そんな前に、これだ。

どないなってんねん。

 

「私。無理だから」

 

彼の反応には申し訳ないけど

お姉さまだから言えなくはない。

きっぱりと、密着しながらも言ってみる。

 

「うん。俺の体、正直だから」

 

暗くて彼の表情はみえない。

 

私はちょっと話題を変えてみた。

 

「ねえ?ずっと思っていたんだけど

お酒一滴も飲まないけど、飲まない人なの?」

 

彼がライブハウスでも二次会でも

お酒を飲んいるところを見た事がないのだ。

兼ねてから不思議だった事を聞いてみた。

 

「あ、それな。

俺、病気してから

飲まない方がいいって言われたんだ。

飲まないうちに

もう飲まなくても平気になっているし

飲みたいともあまり思わない」

 

ちらっと聞いた事があった。

たしか、脳の病気をしたって。

 

「頭の病気?」

「うん」

「良性?悪性?」

「良性」

「なら、良かった……」

「あ、そう言えば、俺

誰にも言ってないんだけど

タイミングよく病気の話でちゃったし。

俺、来月入ったら手術するんだ。

また、頭をね。

余計な心配させたくないから

ライブハウスの仲間には話してないから……」

 

盲腸切ったり

胆石とったりのレベルでないのに

なぜにこの人はこうも

冷静にかつ寂しそうに話すんだろう……

 

そんな事を考えていたら

私から彼の唇にキスをしていた。

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続く

ノンフィクション小説